2019-01-23

[BfR]「フェイクニュース」の時代に、科学はどうやって自己主張できるか? 

ドイツ連邦リスク評価研究所、第7回関係者会議における発表と議論

How can science assert itself in the age of “fake news”?

Presentations and discussions on a topical subject at the 7th Stakeholder Conference of the German Federal Institute for Risk Assessment

BfR Communication No. 041/2018 from 13 December 2018

https://www.bfr.bund.de/cm/349/how-can-science-assert-itself-in-the-age-of-fake-news.pdf

「フェイクニュース」という言葉は少々使い古したものになりつつある。それは人々を操る目的でメディアに拡散される虚偽のニュースを表す。多くの場合、すぐにそれとはわからない政治的なメッセージと関連している。ねつ造された研究(フェイクサイエンス)と疑似科学的な「プレデタージャーナル」(フェイクジャーナル)について同時多発的に湧き上がる報告と共に、科学はますます頻繁にフェイクニュースの標的になりつつある。さまざまな理由から、ここに科学自体に対する批判が加わる。

科学的根拠のある主張-例えば気候の研究や植物保護製品の健康評価-は人々が共感したりしなかったりできるただの意見とされる。確固たる事実が、そう思われているだけのこととすり替えられる。この科学への信頼の危機こそが、ドイツ連邦リスク評価研究所が2018年11月15日、ベルリン・ミッテのKaiserin-Friedrich Institutionの講堂において、「すべて嘘?真実が多数ある時代の科学」を標題に、著名な講演者を迎えて第7回関係者会議を開催した大きな理由である。この会議における発表と議論の概要を以下に示す。

 少なくとも理論上は、フェイクニュースの問題は簡単に解決できる。「科学とは、事柄とその事柄がそうなったことの説明との一致である」は、連邦食品農業省の食品安全および獣医衛生部門長であるBernhard KühnleがDudenの辞書から引用した定義である。この真実を目指す上で、例えば消費者保護のような分野では、科学は不可欠である。Kühnle氏によれば、科学的評価は、食品企業にとってと同様消費者保護機関による信頼できる決断の確固とした土台となるものである。それはまた、人々が健康でバランスの取れた食事を好むように促すものとなるべきである。「科学は信頼でき、頼れる情報源として強化され保護されなければならない」とKühnle氏は述べた。科学はフェイクニュースの回避に役立つ。

科学は隠されてはならない

 その責務を正しく実行するためには、科学は公明正大にして最高品質でなければならない、とKühnle氏は要求した。科学的研究および公表は、政治的審議および経済的利益から独立していなければならない。「公表の用意があるものについて、何も隠してはならない」。

 この訴えの対象となる分野-政治、貿易と産業、メディアと市民社会-にも義務があるとKühnle氏は言う:「真実を扱うことに戦術はない」。つまり、科学は自分たちの立場や利益を支持するときだけ良く、矛盾するときには疑わしい、ということではない。「無農薬農業を熱心に支持するために、植物保護製品の専門的なリスク評価を行う人々の信用を落とす必要はない」とKühnle氏は述べた。科学的根拠に基づく事実は、政治的および社会的な議論に代わるものではなく、議論の基盤を形成するものである。

グリホサート:全ての人が専門家?

 ソーシャルメディアバブルの中で生き、そこで読んでいることすべてを信じる人たちがいる、とドイツ連邦政府の食品農業委員会委員長であるAlois Gerig(CDU / CSU)は語った。「彼らは自ら騙されようとしている。」 この一例は、有効成分グリホサートを含む植物保護製品についての、客観性を欠き時にヒステリックな議論である。突然、ドイツにはこの問題に関してメディアによって一方向に動かされる8000万人の専門家が登場した。こうした動きには、「感情的、道徳的、そして二極化」な傾向がある。事実と意見の境界があいまいになり、複雑な科学的背景を持った報告が減っていく。「インターネットの時代では、事実(ファクト)と偽物(フェイク)を見分けることがはるかに困難になっている」とGerig氏は述べている。

 前の講演者と同様、Gerig氏はフェイクニュースに関する議論では、科学は重要な役割を担うと考えている。BfRは良い科学的な活動の一例である:「あなた方(BfR)は我々に本当のリスクを認識されてくれる。」 「ポスト事実の時代」では、フェイクニュースとの闘いは科学だけに任されるべきではなく、社会全体が直面する課題であるとしている。マスコミやソーシャルメディアもまた、より多くの社会的責任を担うべきである。Gerig氏はまた、信頼できる科学的情報が提供されるインターネット上のプラットフォーム-「より優れたウィキペディア」-も想定できるとした。

思慮深さではなくスピードが議論を決める

 最初のつぶやき、最初のニュース速報、そして政治家が発信するフェイスブック・タイムラインからの最初の引用が、その話題がメディアでどのように扱われるかを決定する、と連邦政府食品農業委員会副委員長のCarina Konrad(FDP)は批判した。彼女はAlois Gerig氏同様、自身が農家である。「スピードは表面的なものにつながる」とKonrad氏は言う。その結果は時に、植物保護製品や動物福祉などの複雑な農業問題に関する意見を操作しようとする試みとなる。このことが影響を受ける農家たちを苛立たせる。「若者はもはや両親から農場を引き継ぎたいと思わない」と彼女は報告した。

Konrad氏にとって、課題は合理的な決定の出発点としてデータをもとにすることである。大衆操作に対抗するためには、さらなる教育も必要である。「フェイクニュースはただ消費されるだけで、疑問視されない」とKonrad氏は言う。学校でも情報はまた月並みで一方に偏った方法で伝えられている、とこの政治家は6年生である娘の例を使って批判した。畜産業の話題を扱うとき、有機農法は自家製有機飼料と、慣行農法は抗生物質と関連させていた。彼女が促して慣行農法を行う農場へ一度訪問しただけで、授業の過程で生じたいくつかの偏見は払拭された、とKonrad氏は報告した。

スターリンの法廷での詐欺

 科学にもフェイク?BfR会長のProfessor Dr. Dr. Andreas Henselは彼の発表の中で、多構造で、根本的にはそれほど新しくはない問題のいくつかの面に焦点を当てた。1930年代と1940年代のソビエト連邦では、ロシアの生物学者Trofim Lysenkoがスターリンの実験を偽造した。これは古典的な遺伝学を反証し、種の形質転換を証明することを目的としていた。データや測定結果の操作のように、不正は常に明白であるとは限らない。特定の概念にフィットするように方法や結果を恣意的に使用すること(「チェリーピッキング:いいとこ取り」)や、一方的でしばしば思想的な動機による結果の解釈はよくあることだ。

 1996年にNASAの科学者たちが隕石に発見した「火星のミミズ」を発見したように、時に希望的観測が混乱を招くことがある。この種の間違いはそれ自体非難すべきものではない。なぜなら、たとえ最終的に不正確であると証明されたとしても、科学は新しいアイデアから生まれるものでもあるからである。しかし、「間違い(wrong)」と「偽造(faked)」の間には大きな違いがある。

 研究者には、自分のキャリアを伸ばしたいという願望、助成金の獲得競争、論文発表への圧力(「論文発表か死か」)、あるいは自分たちの良い評判を維持することなど、虚偽を行うさまざまな動機がある。フェイクサイエンスが招く結果は過小評価されるべきではない。科学と影響を受けた研究機関の信頼性は世間の目にさらされてダメージを受ける。ねつ造された研究結果はまた、例えば健康リスクを評価するとき、または結果を再現しようとするとき、結局は行き詰まる。

 研究が発表される前の徹底的な精査(査読)、透明性、品質保証措置および独立性は、Hensel氏の見解によれば不正防止のための最も重要な手段の一つである。科学者にとって、「正しい」科学はここでのコインの片側にすぎない。Hensel氏によると、それはまた世間の疑問に答えることに他ならない。「まだやるべきことがたくさんある」とBfR長官は述べた。

リスク評価:科学は失敗している?

 リスク評価に係る分野で可能なことにおいて我々はまだ遅れを取っている、とProfessor Wilfried Kühling(University of Halle-Wittenbergおよび環境保全NGO、Bund für Umwelt und Natur Deutschland:BUNDの科学諮問委員会メンバー)は、高圧送電線の近くで暮らす子供たちの白血病予防の例を挙げて批判した。子供における白血病の危険性がおよそ0.2マイクロテスラの磁場強度から有意に増加することは、もう何十年間も科学的に証明されている。この事実に従った法的拘束力のある保護基準は、現在の制限値100マイクロテスラよりも500倍低くなるはずである。「科学は役立たずなのか」とKühling氏は問いかけた。

 Kühling氏はまた、環境健康リスクを評価する際には、これまで以上にさまざまな影響要因(飲料水および空気中の発がん性物質、可塑剤、騒音、放射線およびストレスなど)の複合効果により重きを置くこと、また各専門分野が分野の境界を超えることを提案した。特に検討の対象となる計画立案過程において、法に裏打ちされた予防措置によってかなりの改善がここで達成される可能性がある。基準や規制値に関しては、科学の判断だけが対象ではなく、専門家に加えて社会的集団も関与するべきである。「解決策は共同評価プロセスにある」とKühling氏は述べた。

不確実性は強み

 人生は不確かであるが、我々はそれでもかなり上手くやっているように見える。子供たちをどこの学校に行かせようか。貯金で何をするべきだろうか。科学にのみ、我々は完全な確実性を期待する。絶対的な確実性を発していない科学者はすぐに信頼できないと言われる。これが気候研究がしばしば「フェイク」だと批判される理由である。なぜなら、気候研究はいまだ可能性を相手にしなければならないからである。しかし、これこそが科学の特別な強みであると、哲学者にして物理学者であるRafaela Hillerbrandは考えた。「科学的声明はその不確実性にもかかわらず、ではなく、その不確実性がゆえに、信頼できるのだ」とKarlsruhe Institute of Technologyの教授は言った。「気候変動を予測するのに、ニュートンの重力の法則を適用するときと同程度の精度を期待することはできない。」 このような理由で科学を信用しない人は同じように科学的方法をないがしろにする-危険な動きである。

 科学を批判する人たちは科学は多くの意見の一つだと言うが、そうではない。それでも、科学的結果について伝える場合、事実だけを述べて常に存在する不確実性について言及しないのは間違っている、とHillerbrand氏は述べた。特にこの「オルタナティブ」ファクトの時代においては、これらが(真実の代わりに存在するフェイクの事実や不確実性が隠された事実)崇拝の対象や宗教の代わりになることを許してはならない。

普通の人たちは操られることと不信の狭間に

フェイクニュースについての議論は「虚偽の事実についてではなく、むしろ専門家への信頼の欠如についてである」と「Science Media Center」の科学ジャーナリスト、Volker Stollorzは述べている。「同時に力のある人々は、一度人々の習慣や感情の操り方を発見してしまえば、どのようにデジタルコミュニケーションというプラットフォームで最もばかばかしいことを拡散できるかをよく知っている。」 これはフェイクニュースというよりも、ターゲットを絞った情報操作である:「欺くことおよび操ることを目的として、ひそかにコミュニケーションプロセスに送り込まれた意図的に歪められた情報」。

 このデジタル時代においては、虚偽情報、嘘、そしてうわさは世界中にまたたくまに拡散する。過激で感情的なものは何でもソーシャルメディアで関心を集める。最も大きな声で叫んだものが、より多くの人に注目されがちである。Stollorz氏の見解では、この種の「デジタル環境汚染」は、その間にも民主的な制度を危険にさらすことさえある。ポピュリストたちはそのメガホンで、複雑で多様なメッセージを発する人々や、科学者やジャーナリストのような物事を本当に徹底的に調べたいと思う人々の声をかき消してしまう。状況は科学ジャーナリスト-「死にゆく種族」-にとって特に深刻である。なぜなら彼らは徹底的な研究のために必要な時間と資源を持っておらず、そしてそれは科学によってますます支配されている世界において不可欠なのである。

公衆と科学:4つの基本原則

「フェイクサイエンス」にまつわる議論は、批判的な目で見られてきた科学者たちの仕業だけではない。Thomas Hestermann教授(Macromedia University、ハンブルグおよびベルリン)は発表の中で、彼らがどのように世間一般と向き合うことができるかについて論じた。「それはすべてイメージに依存する」とHestermann氏は、病気の動物たちの写真が大衆に衝撃を与えたアザラシの大量死について言及した。

 態度も重要である。有毒なゴミ捨て場の周辺でダイオキシンが発見されたことを受け、ドイツのある連邦州の報道官がカメラの前で深い関与の代わりに無関心を示した。 これは、テレビ報道が示すように、悪い例である。「決定的な側面は、情報の「中身」だけでなく、「どのように」情報を出すかでもある。」とHestermann氏は説明した。

 「すべてはポジティブな事例に依存する」がHestermann氏の三つ目の仮説で、かれはこの仮説を「ロボットジャーナリズム」の例を挙げて説明した。我々から仕事を奪うコンピュータについての 「Der Spiegel」マガジン(Hestermann氏はそれを「憂鬱な将来展望のためのジャーナル」と呼ぶ)の悲観的なタイトルの話は間違いであることが証明された-完全雇用を見れば明らかだ。一方で、電子的「筆記者」は厄介な仕事からジャーナリストを解放している、とこの科学者はシュツットガルト地区での微粒子測定に関するテキストの例を使って示した。それらは事前に準備されたテキストモジュールを使用してコンピュータによって書かれており、「Stuttgarter Zeitung」でオンラインでアクセスすることができる。

 公に話をする人には勇気も必要だ。Hestermann氏は、スイスの科学者全体のたった4%がメディア声明の50%を寄稿しているという調査結果を引用した。これは、大多数の人が報道、ラジオ、テレビに出ることはほとんどないということを意味する。「サイエンス・スラム(Science slams:科学者が自分の研究について、限られた時間内で専門外の人にいかに楽しく伝えることができるかを競うイベント)」は科学者の仕事を発表する新しい方法である。これは恥さらしにもなるが、同時に医学生Giulia Endersの例のように、サクセスストーリーの始まりにもなり得る。彼女のベストセラー「Gut」は、スラムでの発表から始まったものである。

フェイクジャーナルはフェイクサイエンスではない

 科学に対するある程度の懐疑論は、一般大衆の間だけでなく、科学界の中にも存在する、と神経科学者のProfessor Ulrich Dirnagl(ベルリン医科大学(シャリテー:Charité))は、「Nature」誌が実施した調査の例を使用して示した。この調査によると、研究者の90%は、中程度から明確な再現性の危機があり、それが科学的結果をある程度しか信頼できるものにしないと考えている。しかし、「フェイクサイエンス-嘘の工場」という見出しで行われた、影響力のあるメディアによる「詐欺ジャーナル」に関する科学の扇動的な批判は、ポイントを外している。「プレデタージャーナル」に記載されたというだけで、その科学はフェイクだとは言えない。この種の主張は科学システムの本当の弱点から注意をそらしてしまう。

 Dirnagl氏の見解では、本当の問題は、単に研究者の目的に合わないからという理由でデータが公表されていないことである。専門分野によって、このことはすべての研究の40%から50%以上に当てはまる、とこの医師は推定している。「物語」もまた結果を歪める。統計的なトリックによって、結果は物語に「収まる」まで操作される。一方良いニュースには、Dirnagl氏の見解によると、透明性と科学的開放性を保証する「bioRxiv」や「Open Science Framework」などのライフサイエンス分野における研究のための新しい出版フォーマットなどがある。

 「論文発表か死か」は教授としてのキャリアを得る必須指標である-Dirnagl氏の見解ではこれは破滅的な展開である。なぜなら、科学論文発表の数はインパクトファクター(研究が掲載されている雑誌の論文の引用頻度)と同じくらい、質の測定としては貧弱だからである。数はより少ないがより信頼性の高い研究が発表され、科学者が彼らの専門分野または社会における真の影響に沿って評価されたほうがいい、とDirnagl氏は述べた。量の多さ(mass)ではなく質の高さ(class)である。

科学:信頼できるが不確実性がある

 続く登壇で、「部屋の中の象」とは「不確実性」を意味する言葉である、と神経内科医Ulrich Dirnaglは述べた。それは弱さではなく強さとして、可能性と洞察力の限界の認識として、哲学者Rafaela Hillerbrandが先に説明したように、科学において極めて重要な意味を持つ。Dirnagl氏は、それを重要な側面として公の場で議論することを提案した。しかし科学的な相互関係の微妙な評価は、「7秒の声明」や1つのツイートでは不可能である。

 メディア科学者のThomas Hestermannは、普通の人々は科学には不確実性ではなく、信頼性を期待していると反論した。ジャーナリストのVolker Stollorzはまた、科学を政治的決定の基盤として信頼できる知識を提供する「精神的な下水処理場」と見る。一方、不確実性の認識は、政治によって即座に利用される。例えば、気候変動における対応不足が次のモットーに沿って正当化される:「ええ、でもすべては不確かでありまして・・・」。

 科学的発見は実際のところ、どのくらい信頼できるのか。Dirnagl氏は、今日の報道ではチョコレートを食べることを勧め、明日にはリンゴを、そしてその次の日は赤ワインがお気に入りとなる「いわゆる栄養科学」の例を使ってこの問題を提起した。この「今日はこれ、明日はこれ」という態度が、新聞読者に恣意的で勝手であるという感情を呼び起こすのだ、とジャーナリストで会議の司会者であるSascha Karberg(Der Tagesspiegel、ベルリン)は言う。

研究者たちは「公となるリスク」に直面し、インタビューやトークショーで楽観主義を広め、「恐怖によって動かされる多くの真実の世界」で前向きな話をする勇気を出すべきだとHestermann氏は述べた。BUNDの代表であるWilfried Kühlingも、同僚たちに象牙の塔(ivory tower:俗事から遠く離れた場所)を離れ、たとえ時には自分を追い詰めることになるとしても、自分の信念を公に表明するよう求めた。

 インターネットを検索する者は誰でも、すぐに多くの真実に行き当たる。BfR長官のAndreas Henselは、「そこには事実に興味がない広大な世界が広がっている」とコメントした。人々は自分の携帯電話上の情報がどれほど信頼できるものなのか自分自身に問わなければならない。結局また、知識とは信用の問題となってしまうのだろうか?

 

[EFSA]2017年の新興リスクに関するEFSAの活動

EFSA's activities on emerging risks in 2017

14 January 2019

https://www.efsa.europa.eu/en/supporting/pub/en-1522

新興リスクに関するEFSAの活動の主な目的は、(i) EFSAの付託領域の新興リスクを同定するための活動を行うこと、(ii) 新興リスクの同定方法やアプローチを開発し改善することである。この技術報告書は、新興リスク同定手順に含まれるすべてのグループの活動、2017年の間に確認された問題、開発された方法論の説明、共同作業に関して要約している。EFSAの知見のネットワークには、新興リスク情報交換ネットワーク(Emerging Risks Exchange Network)、新興リスクについての関係者による討論グループ(StaDG-ER)、EFSAの科学ユニット、科学パネル、科学委員会及びその作業グループが含まれている。様々な関係者が利用する新興リスク同定手順の概要が示された。

脆弱性や変化の原動力を同定するための世界的規模のフードチェーン分析の適用可能性に関するプロジェクト (AQUARIUS)、並びに新興リスク同定のための方法論と共同利用ツールの開発(DEMETER)及び欧州のシガテラに関するデータ収集(EuroCigua)の2件が継続されている。化学物質のスクリーニング方法の適用に関する新しいプロジェクト(REACH 2)が開始された。

2017年には全部で17件の潜在的な新興問題が議論された。この問題は事前に定義された一連の基準、a) 新しいハザード、b) 新しい暴露又は暴露の増加、c) 新しい感受性の強いグループ、d) 新しい原動力、を評価した)。また、EFSAの定義に従って5件の問題が新興問題ではないと考えられた。

<潜在的な新興問題(下線項目が化学ハザードに分類されている>

  • フードサプリメントや茶へのブラックコホシュの使用に関連するリスク
  • 南米におけるジカウイルスのベクター管理に使用される農薬の残留により起こりうる食品汚染(シフェノトリン、フェノトリン、メトプレン、ナレド、ノバルロン、テメホス及びプラレトリン、ペルメトリン、レスメトリン)
  • 食品部門へのナノエマルションの使用(野菜オイルで野菜製品の表面コーティングする)
  • RNA農薬
  • 2017年収穫期における小麦の黒さび病と黄さび病の拡大
  • 小麦粉の志賀毒素産生性大腸菌(E. coli O121)
  • β-メチルアミノ-L-アラニン(BMAA(非タンパク性アミノ酸で神経毒があり慢性的な神経変性を起こす可能性をもつ。気候変動と富栄養化により発生したシアノバクテリアが産生することについて)
  • アゾール耐性Aspergillus spp.によるヒト感染の増加
  • 有機シリコン界面活性剤アジュバント(OSS
  • 2016年ベルギーでツマアカスズメバチ(Vespa velutina nigrithorax)におけるMokuウイルスの初めての発見
  • オランダにおけるBrucella suis
  • アフリカ豚コレラ-豚の群れにおけるバイオセキュリティの評価
  • 強化食品に含まれる栄養素の高用量に関連する潜在的リスク 

以前に同定された問題に関する知見や措置の発展についてのフォローアップは極めて難しく、新興リスクの同定は、確認された問題の数ではなくその工程自体に基づくべきである。EFSA(EFSAのユニット、EFSAのネットワーク、パネル、作業グループ)とEU機関と国際機関内の科学的コミュニティとのより良い協力はEFSAに優先事項であるが、その手順をより効果的にするために、入手可能な多大なデータや情報量を管理するデータ管理システムやデジタル連携基盤が必要である。

 

[EFSA]意見等

-ベンチマーク用量モデリングのためのソフトウェア

Software for Benchmark Dose Modelling

14 January 2019

https://www.efsa.europa.eu/en/supporting/pub/en-1489

 ベンチマーク用量モデリングをウェブ上でできるようにしたアプリケーションの開発に関する報告。

-七面鳥肥育用、交配用に育てている七面鳥用、マイナー家禽種肥育用あるいは産卵のための育成用としての飼料添加物としてのB‐Act® (Bacillus licheniformis DSM 28710)の安全性と有効性

Safety and efficacy of B‐Act® (Bacillus licheniformis DSM 28710) as a feed additive for turkeys for fattening, turkeys reared for breeding and minor poultry species for fattening or raised for laying

EFSA Journal 2019;17(1):5536  14 January 2019

https://www.efsa.europa.eu/en/efsajournal/pub/5536

B‐Act®はBacillus licheniformis株の生きた胞子を含む製剤である。この種は安全性を評価するのに、安全性推定(QPS)アプローチが適切だと考えられている。以前の意見で、この株はQPSアプローチの基準に合っていることが分かった。この添加物の他の成分からの懸念は予想されないので、B‐Act®は対象種、消費者、環境に安全だと想定される。推奨用量1.6 × 109コロニー形成単位 (CFU)/kg 飼料で B‐Act®は七面鳥肥育用に有効である可能性がある。同じ用量がマイナー家禽種の肥育用や産卵のための育成用に提案されているので、この結論はこれらの種に拡大/ 外挿できる。以前に出されたコクシジウム症のB‐Act®の互換性に関する結論は、対象種用コクシジウム症の最大認可濃度が鳥用のそれと同等/ それより低ければ、現在の申請に適用する。

 

-鶏肥育用Deccox® (デコキネート)の安全性と有効性

 

Safety and efficacy of Deccox® (decoquinate) for chickens for fattening

EFSA Journal 2019;17(1):5541 14 January 2019

 

https://www.efsa.europa.eu/en/efsajournal/pub/5541

有効成分としてデコキネートを含むDeccox®は、用量範囲20–40 mg/kg完全飼料で鶏肥育用のコクシジウム症の予防として使用することを意図している。提案されている使用で鶏、消費者、使用者、環境にとって安全である。コクシジウム症予防については根拠不十分であった。

 

-遺伝子組換えトウモロコシMON 89034 × 1507 × MON 88017 × 59122 × DAS‐40278‐9及び起源に関わらない全ての組み合わせの食品及び飼料としての使用、輸入、加工のための認可申請(EFSA‐GMO‐NL‐2013‐113)についての評価

Assessment of genetically modified maize MON 89034 × 1507 × MON 88017 × 59122 × DAS‐40278‐9 and subcombinations independently of their origin for food and feed uses, import and processing under Regulation (EC) No 1829/2003 (application EFSA‐GMO‐NL‐2013‐113)

EFSA Journal 2019;17(1):5521 14 January 2019

https://www.efsa.europa.eu/en/efsajournal/pub/5521

トウモロコシ MON 89034 × 1507 × MON 88017 × 59122 × DAS‐40278‐9 (5‐イベントスタックトウモロコシ)は、従来品と5シングルトウモロコシイベントMON 89034、1507、MON 88017、59122、DAS‐40278‐9を掛け合わせて生産された。GMOパネルは以前にこの5シングルトウモロコシイベントとその11の組み合わせを評価し、安全上の懸念を確認しなかった。このシングルトウモロコシイベントやその11の組み合わせの、最初の安全性の結論を修正するような新しいデータは確認されなかった。分子特性、比較分析(農学的、表現型及び組成特性)や毒性、アレルギー誘発性および栄養評価の結果は、シングルトウモロコシイベントの組み合わせや、その5-イベントスタックトウモロコシに新たに発現したタンパク質の組み合わせは、食品及び飼料の安全性や栄養上の懸念を生じないことを示した。GMOパネルは、この申請書で説明されているように、この5-イベントスタックトウモロコシは、調べた非GM対象品種や非GM参照種と同じように安全で栄養上等しいと結論した。この5-イベントスタックトウモロコシが環境に偶然放出されても、環境上の安全性の懸念は生じない。GMOパネルは実験データが提出されていない14のトウモロコシの組み合わせのシングルイベントで相互作用の可能性を評価し、それらはシングルイベント、以前に評価した組み合わせ、この5-イベントスタックトウモロコシと同様に安全で栄養価が等しいことが予想されると結論した。市販後環境モニタリング計画と報告間隔はこの5-イベントスタックトウモロコシの使用意図に従っている。食品/飼料の市販後モニタリングは必要ないと考えられている。GMOパネルは、この5-イベントスタックトウモロコシとその組み合わせは、ヒトと動物の健康と環境についての潜在的影響に関して、非GM比較対照種や調べた非GM参照種と同様に安全だと結論した。

 

-EC規則No 1829/2003 (申請 EFSA‐GMO‐RX‐009)の下で認可更新のための遺伝子組換えダイズA2704‐12の評価

Assessment of genetically modified soybean A2704‐12 for renewal of authorisation under Regulation (EC) No 1829/2003 (application EFSA‐GMO‐RX‐009)

EFSA Journal 2019;17(1):5523  14 January

https://www.efsa.europa.eu/en/efsajournal/pub/5521

2019EFSAの遺伝子組換え生物に関するパネルは、除草剤耐性遺伝子組換えダイズA2704‐12の、EU内での栽培を除く、食品及び飼料としての使用、輸入、加工の認可申請の更新のために提出されたデータの科学的リスク評価を出すよう求められた。受け取ったデータは、市販後環境モニタリング報告、文献の系統的検索と評価、バイオインフォマティック解析更新、申請のために行われた試験や追加文書などが含まれる。さらに、申請者は現在販売中の、またこの先何年か後に販売することを意図した商用品種のダイズA2704‐12イベントについての配列データを提出した。GMOパネルは、認可期間中に確認され、最初の申請で以前に評価されていない、新しいハザード、暴露の変化、新しい科学的不確実性の可能性についてこれらのデータを評価した。GMOパネルは、EFSA‐GMO‐RX‐009の認可更新に、ダイズA2704‐12の元のリスク評価の結論を変える新しいハザード、暴露の変化、あるいは科学的不確実性の証拠はないと結論した。

-香料グループ評価208改訂3(FGE.208Rev3)についての科学的意見:FGE.19の化学サブグループ2.2の環や側鎖、前駆体に α,β-不飽和脂環式アルデヒドの遺伝毒性データについての検討

Scientific Opinion on Flavouring Group Evaluation 208 Revision 3 (FGE.208Rev3): consideration of genotoxicity data on alicyclic aldehydes with α,β‐unsaturation in ring/side‐chain and precursors from chemical subgroup 2.2 of FGE.19

EFSA Journal 2019;17(1):5569 11 January 2019

https://www.efsa.europa.eu/en/efsajournal/pub/5569

FGE.208Rev1では、代表する1物質[FL‐no: 05.117]についての遺伝毒性試験を評価し、in vivoで遺伝毒性だと分かった。物質[FL‐no: 05.117]は4物質([FL‐no: 05.121, 09.272, 09.899,09.900])と共にユニオンリストから除外された。

FGE.208Rev2では、入手可能なデータが疑わしいと考えられるミルテナール [FL‐no: 05.106]以外の、5香料物質[FL‐no: 02.060, 02.091, 05.106, 09.278, 09.302]の遺伝毒性試験を評価し、遺伝毒性の懸念は除外できた。

FGE.208Rev3では、評価中の物質の追加の遺伝毒性試験(細菌を用いる復帰突然変異試験とin vivo骨髄赤血球小核試験と肝臓十二指腸のコメットアッセイの組み合わせ)を提出した。これらの新データを基にして、パネルはミルテナール[FL‐no: 05.106]の遺伝毒性の懸念は除外できたと結論した。