2019-11-19

[BfR] 工業用化合物PFOSと PFOAの新しい健康ベースのガイダンス値

New health-based guidance values for the industrial chemicals PFOS and PFOA

BfR opinion No 032/2019 of 21 August 2019

https://www.bfr.bund.de/cm/349/new-health-based-guidance-values-for-the-industrial-chemicals-pfos-and-pfoa.pdf

パーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)と パーフルオロオクタン酸(PFOA)は工業用化合物である。PFOSは2006年まで、カーペット、室内装飾及びボール紙や紙から作られる包装資材の表面処理用の泥よけ剤、撥油剤、撥水剤及び消火剤の出発物質として使用された。2006年欧州委員会はPFOSの使用を厳しく制限し、その結果PFOSは以降特別申請によってのみ許可されてきた(例えば、宇宙産業)。しかし、PFOAは2020年まで使用される可能性がある。撥水、撥油及び撥泥加工の衣服及びフライパン用の付着防止コーティングのために工業用に使用されている。2020年以降、PFOAとその塩及び前駆体は製造あるいは市販できないだろう。

どちらの物質も化学的に非常に安定しており、水と油に溶けず、結果環境に分散しやすい。そこから、PFOSとPFOA は食品チェーンに入り込む。ヒトは主に食品を介してそれらを摂取する(飲料水を含む)。毎日少しずつ摂取するならば、2物質はヒトでゆっくりしか排出されないので、組織に蓄積される。

ドイツ連邦リスクアセスメント研究所(BfR)は欧州食品安全機関(EFSA)よりこれら2つの物質の再評価に関する意見を求められた。再評価において、EFSAは初めて最終的にPFOS/PFOAの血中濃度と長期的にヒトに特定の疾患の発生を最終的に増加させるかもしれない生物態学的パラメーターの変化と相関する疫学的研究のデータを使った。脂質代謝の変化(総コレステロール値の上昇)には特に十分立証された関係が存在する。コレステロールは循環器疾患のリスク要因として知られているものの1つである。しかし、これらの疾患のリスクに重要な影響のある他の要因がある。今までのところ、PFOS/PFOAの血中濃度と暴露したヒトのグループで特にこれらの疾患のリスクが高くなるという関係性に対する信頼できる疫学的エビデンスはない。

EFSAは新しく、大幅に引き下げられた耐容週間摂取量(TWI)を導きだした。PFOSは現在週あたり体重キログラムあたり13ナノグラム(ng)で、PFOAは週あたり体重キログラムあたり6ナノグラム(ng)である。その値は一生かけてもヒトに相当な健康影響を与えない消費であろう1週間の摂取量を示す。

BfRはPFOS及びPFOAの食品経由摂取の健康リスクを評価するためにこれらのTWI値を使用することを推奨する。しかし、BfRはこの現在の導出に科学的な不確実性があり、追加研究の必要性を考える。EFSAも科学的不確実性に言及している。この物質のグループの中の追加の化合物の継続的な評価の一環として、EFSAはPFOSとPFOAの再検討査を行うだろう。     

市民の一部においてはPFOSとPFOAの食品経由の摂取は新たなTWI値を超過している。しかし、EFSAが暴露評価に使用した発生データとドイツのBfRが利用できる発生データのいずれも大きく不確実性がある。加えて、PFOSとPFOAの短期間の摂取量の上昇は、特定の期間のTWI値の範囲内にあり、その血中濃度が健康にとって危険性があるということを必ずしも意味しない。

PFOS/PFOAの血中濃度に基づく評価がおそらくより意義があるだろう。ドイツではこの濃度は2009年以降、下降傾向を示している。ドイツの都市部における2016年の研究は、調査されたグループではPFOSとPFOAの新しく導き出されたTWI値のもとになった血中濃度を超過していない。

BfRはPFOSとPFOAの食品経由の消費者の暴露をより最小限にするための措置を推奨する。原則として、暴露源として飲料水を含めることを推奨している。

BfRの意見は、特に、TWI導出に使用した疫学的研究結果の因果関係のエビデンスと臨床的意味に関して研究の必要性があるというものである。ドイツでは消費者のPFOSとPFOAの外部及び内部の暴露を予測するデータベースを改良する必要性もある。食品経由の暴露に関するこれらの知見を考慮し、BfRはPFOSとPFOAの食品経由の暴露による消費者の健康リスクの可能性はありそうにない、という2008年の見解を完全に支持することはできない。

 

(リスクの可能性を除外できない、と言っているのは血中コレステロール濃度への影響なので、NHKが煽っている発がん性などではない

https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4280/index.html

 

 

[FSSAI]全国ミルク安全性と品質調査

National Milk Safety and Quality Survey

https://fssai.gov.in/upload/uploadfiles/files/Report_Milk_Survey_NMQS_Final_18_10_2019.pdf

要約

人口5万人以上の1103の市や町から6432検体のミルクを集めた。小売店や加工場のほか地元の農場やミルク売りからも、生乳も加工乳も集めた。

12検体にはヒトの摂取に安全でない異物混入があった。6検体から過酸化水素、3検体は界面活性剤、2検体は尿素、1検体からは中和剤が検出された。

検体の5.7%、368件からは許容量を超えるアフラトキシンM1が検出された。77検体(1.2%)からは許容量を超える抗生物質が検出された。

全体として6432検体中5976検体、93%は安全である。それはインドの消費者にとって疑いようもなく良いニュースである。

一方約41%の検体は質のパラメーターの一つ以上に失格だった。脂肪や無脂乳固形分(SNF)の低いものがあった。生乳ではこれらは種や餌により大きく異なり牛は適切に飼育されなければならない。したがって生乳でこれらの理由、あるいは水で薄めたことによる脂肪やSNFの低さはわかりやすい。しかし標準化/加工乳でも脂肪とSNFが基準を守らないのは驚きであった。156検体にマルトデキストリン、78検体に砂糖が検出されたことも驚きである。これらは安全性に問題はないが脂肪とSNFを上げるために加えられている。そのような行為をやめさせるには厳しい対応が必要である。

この調査の結果はインドのミルクには広く異物混入が行われているという神話を否定するものである。

 

(逆に水で薄めるとかごまかすのが普通に行われているんだなという印象なのだが。水で薄めるのは安全上問題はないからいいと?)

 

[FSSAI]メディアコーナー

健康でいるためにトランス脂肪フリー食をしよう、と子どもたちは話される

Adopt trans-fat-free diet to stay fit, children told

TNN | Nov 13, 2019

https://fssai.gov.in/upload/media/FSSAI_News_Fat_TOI_13_11_2019.pdf

FSSAIの行った特別プログラムに子供たちが参加した。小児心臓専門医Dr Devaprasathが、食事由来のコレステロールが血管に沈着して血管を詰まらせると説明し、コレステロールを含まない食品を食べよう、伝統的食生活に戻ろうと語った。

(トランス脂肪ではなくコレステロールを含まない食品に話が変わっていることに注目。コレステロールを含まない食品を食べればコレステロールができないというのも間違いなので二重に間違っている。しかしこれをFSSAIもそのまま掲載。WHOの提言に途上国向けと先進国向けを混ぜるべきではないと思うのはこういうことがおこるから。インドはまだ栄養不足が問題なのに。)

 

論文

-症状のない人に甲状腺機能を調べること:ルーチンでチェック欄にチェックしないこと

Screening for thyroid dysfunction in people without symptoms: Don't routinely check that box

18-NOV-2019

https://www.eurekalert.org/pub_releases/2019-11/cmaj-sft111219.php

CMAJに発表されたカナダ予防医療専門委員会の新しいガイドライン

症状やリスク要因のない妊娠していない成人に甲状腺機能検査をすることは推奨しない

具体的にはTSH検査の項目にチェックを入れないこと

 

-1971年から 2015年のカナダのがんの傾向

Cancer trends in Canada from 1971 to 2015

18-NOV-2019

https://www.eurekalert.org/pub_releases/2019-11/cmaj-cti111219.php

CMAJに発表された研究によると、新しくがんになる事例は男性では減少しているが80歳未満の女性では増加している。若い人の肥満関連がんが増加している

全年齢でのいくつかのがんの減少は禁煙や日光対策などの一次予防の結果である可能性が高い。しかしPSA検査の増加で前立腺がんの診断が1990年から2007年の間に急増し、甲状腺がんも過剰に診断されている。若い年齢層のがんについては肥満対策と追加のがん予防策及びリスク要因の研究が必要。

 

-高プロテイン食はあなたの腎臓に悪いかもしれない

High-protein diets may harm your kidneys

18-NOV-2019

https://www.eurekalert.org/pub_releases/2019-11/e-hdm111819.php

Nephrology Dialysis Transplantation。高タンパク質食は既存の軽度腎障害を悪化させる可能性があるが、多くの場合軽度腎障害は認識されていない。

 

-研究が野生哺乳類の食事への農業の影響を測定する

Study measures impact of agriculture on diet of wild mammals

18-NOV-2019

https://www.eurekalert.org/pub_releases/2019-11/fda-smi111819.php

PNAS。ブラジルの研究者が野生生物の維持のための農業管理の必要性を強調する

(農家から見たら農作物を荒らされる、だけれどエコロジストにとっては野生生物に悪影響を与えている。何を優先すべきかについての合意はどこで作るんだろう?)

 

-亜酸化窒素、温室効果ガスの一つ、が増加している

Nitrous oxide, a greenhouse gas, is on the rise

18-NOV-2019

https://www.eurekalert.org/pub_releases/2019-11/uomc-noa111819.php

Nature Climate Changeに発表された研究。窒素肥料の使用増加とクローバーや大豆などの窒素固定作物の栽培の拡大、化石燃料とバイオ燃料の燃焼などが環境中の窒素化合物を増やす。これらは食料生産の増加を可能にしたが環境問題にも関連する。欧米では排出量が減少しているがアジアや南米では増加している。

 

その他

-学会の問題

the trouble with conferences

SMC UK blog

NOVEMBER 18, 2019 by Fiona Lethbridge(SMC広報担当)

https://www.sciencemediacentre.org/the-trouble-with-conferences/

「電子タバコは重要な血管を傷つけるので喫煙と同じくらい心臓に悪い、専門家が言う」

「地中海食はスタチンを使用するより心臓に良い、大規模研究が示唆」

「Red Bullは精神衛生に良い?Red Bullに含まれる添加物が神経症の症状を和らげる」

「毎晩赤ワイングラス一杯で糖尿病リスクが減らせる」

「ダイエットコークを捨てる理由がまたひとつ!低カロリー甘味料が恐ろしい糖尿病の引き金をひく」

「赤ちゃんにCalpolを与えると十代で喘息になるリスクが上がる」

これらは最近の全国ニュースの見出しの一部に過ぎない。一部は一面に載った。これらは全て極めて予備的な研究で通常の科学的チェックはされておらずピアレビューも出版もされていない。これらは学会発表からである。駆け出しの科学者はしばしば学会に参加して仕事をプレゼンすることを勧められる。それは科学者や科学にとっては疑いようもなく大事なことで役に立つ。

でもそれは一般大衆向けだろうか?多くの学会が広報担当者を雇ってメディア報道されようとPRするが、学会で発表される研究はピアレビューされておらず間違いのチェックもされていない。もちろんピアレビューが完璧だとは思わないが意味はある。学会発表されたものに意見を求められてもコメントは難しい。SMCの記事でも多くの科学者が学会発表要旨を引用して「この研究は発表されていないのでピアレビューされていない、そして情報が少なく何らかの結論を出すのは困難である」と述べている。

学会の要旨はニュースとして取り上げるのに十分なほど熟成しているだろうか?

私の理想の世界ではそのような予備的研究はプレスリリースされることはない。内容が良ければ論文として発表されるだろうしそれから報道される。でも実際はそうはならないだろう。次善の策としては学会発表の報道にはジャーナリストが責任を持ってほしい

こういう問題があるので私たちはプレスリリースにラベリングシステムを提唱している。学会要旨なら「ピアレビューされていない」というラベルを。

学会は科学コミュニティにとっては重要な場所であるが、学会で提示されているポスターは一般の人々に何を食べたり飲んだりすべきかを助言するようなものではない。

(いろいろ略)

 

-殺すという脅迫や裁判:John Maddox賞は全てをリスクに晒して科学のために立ちあがる研究者を讃える

Natureニュース

Death threats and lawsuits: John Maddox Prize honours researchers who risk everything to stand up for science

Amber Dance

https://www.nature.com/articles/d41586-019-03547-8

Natureと Sense About Scienceは目撃証言で火事と戦う生態学者と医療情報の真実を推進する薬剤師を認める

(インドネシアの山火事(というか放火?)の証言について脅迫や嫌がらせを受けるのは想像に難くないが、カナダの薬剤師がビタミンC注射でがんを治療することはできないと言うことが脅迫や嫌がらせの対象になる、というのがいかにも現代的。ケベックではビタミンC点滴をがん治療法として保険で認めるように、という請願に12万以上の署名が提出されている。提唱者の影響力が大きいとこうなる。どんな一見馬鹿げた主張であってもムーブメントは起こりうる。)