2024-01-26

[BfR]子供向けフードサプリメント – 良い考えではない?!

Food supplements for children - (not) a good idea?!

16 January 202

https://www.bfr.bund.de/cm/349/food-supplements-for-children-not-a-good-idea.pdf

多くの親は子供の食事の好みを懸念する。子供はパスタやポテトチップスを好んで食べるが、ニンジンやブロッコリーには顔をしかめることが多い。野菜や果物は健康的な栄養素として重要であり、ビタミン、ミネラル、その他の成分の十分な供給に不可欠である。

このような状況では、フードサプリメント(不足しているビタミンやミネラルを錠剤や液体の形態で投与するもの)が簡単な解決策に思える。フードサプリメントは、対象となる子供のグループに合わせて特別に調製されたものを含め、非常に種類が多い。広告では、フードサプリメントが栄養素の不足を補うことができるだけでなく、免疫システムの強化、パフォーマンスの向上、一般的に成長と発育を促進するなど、健康にプラスの効果をもたらすことを宣伝する。

ドイツ連邦リスク評価研究所(BfR)によると、フードサプリメントは、例外を除いて、健康な人には不要である。また、バランスのとれた多様な食事の代わりにもならない。これは子供だけでなく成人にも当てはまる。

ドイツの子供たちはほとんどの栄養素を十分に供給されている。しかし、特別な対象となるグループのフードサプリメントは非常に高用量であるが、現在、フードサプリメントに含まれるビタミン、ミネラル、その他の成分の最高基準値に対する拘束力のある規定はない。また、使用されるいくつかの成分の健康安全性に関する信頼できるデータも不足している。これは、特定のフードサプリメントに添加される栄養的又は生理学的効果を有する他の多くの成分に特に当てはまる。

栄養素の供給が十分でないかもしれないという懸念がある場合は、子供にフードサプリメントを与える前に、医師の明確な説明をうけるべきである。

そもそもフードサプリメントとは何か?

フードサプリメントは食品である。一般的な食事を補うことを目的としている。フードサプリメントには、様々な微量栄養素及び/又は栄養的又は生理的効果を有する他の成分が含まれている。例えば、ビタミン、ミネラル、アミノ酸、脂肪酸、食物繊維又は植物抽出物であり、個別に、又は濃縮された形で組み合わせて添加される。フードサプリメントは、錠剤、カプセル又はコーティングされた錠剤のような剤形で提供されるが、少量の測定された量を摂取する場合は、粉末及び液体でも提供される。他の食品とは異なり、フードサプリメントには、特に推奨摂取量が表示され、消費者に向けのより具体的な指示、例えば、小さな子供の手の届かないところに保管すべきであること、多様な食事の代替として使用すべきでないことなどが表示される。フードサプリメントの成分は薬理作用を有してはならない。薬理作用を有する場合は、それは認可の対象となる医薬品である。フードサプリメントに関する一般的な情報については、以下のFAQを参照することができる。(https://www.bfr.bund.de/cm/349/frequently-asked-questions-on-food-supplements.pdf

子供向けのフードサプリメントはあるか?

ドラッグストア、スーパーマーケット、薬局で販売されているフードサプリメントは数多い。数十種類の成分が個別に、又は他の物質と組み合わせて提供されている;用量は製品ごとに異なる。更に、特定の製品は、表示又は剤形の点で特に子供のグループを対象としており、相応する年齢情報が記載されている場合もある。例えば、一部の製品はカラフルな包装やフルーツガムとして、例えばクマの形をして、販売されている。

子供にフードサプリメントは必要か?

健康な子供には一般的にフードサプリメントは必要ない。例外として、くる病を予防するために小児科学会が乳児に推奨しているビタミンDの補給、及び虫歯を予防するためのフッ化物の補充(歯が抜けるまで)がある。これら2つの成分は、ドイツでは乳幼児用医薬品として正しい用量で入手可能であり、しばしば併用される。

原則として、果物や野菜を多く含む多様な食事から、必須栄養素だけでなく、食物繊維や二次的な植物性成分などの他の成分も摂取できる。個々の成分を単離した形態で含有するフードサプリメントは、同等の代替物ではない。

子供にビタミン又はミネラルがどの程度供給されているかを知るにはどうすればよいか?

血液検査でビタミンとミネラルが十分に供給されているかどうかを調べることができる。子供の栄養について疑問がある場合は、親は小児科医に相談すべきである。

特に子供の場合は、サプリメントを摂取するとどのような健康リスクがあるか?

現在の知見によると、より多くのビタミン及びミネラルを摂取すること、つまり、必要量以上は、健康上のメリットはない。例えば、フードサプリメントによりビタミンCを追加摂取しても、必要量を通常の食事で既に摂取している場合は、それ以上の健康上のメリットはない。

しかし、好ましくない場合には、ビタミンやミネラルの過剰摂取は不必要なだけでなく、健康に害を及ぼす可能性がある。例えば、ビタミンDを長期的に過剰摂取すると、血液中のカルシウム濃度が上昇し、特に重度の場合には腎臓が損傷する。このような症例は子供(https://www.akdae.de/arzneimittelsicherheit/bekanntgaben/newsdetail/vitamin-d3-ueberdosierung-bei-einem-saeugling-aus-der-uaw-datenbank)(ドイツ語)で報告されている。

一般に、子供と成人では代謝活動が異なるため、成人に推奨されるフードサプリメントの用量を、子供の必要性に合わせて自分の判断で単純に減らすことはできない。

子供の発達の他の特別な側面も考慮する必要がある。例えば、睡眠補助薬として宣伝されているメラトニンを含むサプリメントを摂取すると、子供と成人では異なる健康リスクが生じる可能性がある。原則として、健康な子供と青年におけるメラトニン摂取の安全性に関連する側面、特に長期使用に関して利用可能なデータは、現在非常に限られている。したがって、BfRは、子供及び青年にメラトニンを含むフードサプリメントを与えるべきではないと勧告している。

子供によるフードサプリメントの誤摂取は、製品の剤形が子供に特別に調製されている場合は、健康に対する特別なリスクをもたらす。いくつかの製品は、例えば、容易にお菓子と間違えられるカラフルなフルーツガムの形態で手に入るので、保護者は、過剰摂取すると健康に有害影響を及ぼす可能性のある成分を含んでいることに注意すべきである。

入手可能なフードサプリメントの用量については、どのようなことが言えるか?

基本的には、医薬品とは異なり、フードサプリメントは認可を必要としないことに留意すべきである;したがって、販売前に当局によって評価されることはない。製造業者及び販売業者が、製品の安全性及び食品法規則の遵守について責任を負う。

ドイツの消費者センターの2018年からの子供用サプリメントの市場調査は以下にある。(https://www.verbraucherzentrale.de/sites/default/files/2023-08/2023_07_10_marktchecknem-fuer-kinder-2023.pdf(ドイツ語版のみ)。

カールスルーエの化学・獣医調査局(CVUA)の2021~2023年の子供向けフードサプリメントの分析研究は以下で閲覧できる。(https://www.uabw.de/pub/beitrag.asp?subid=2&Thema_ID=2&ID=3837&lang=DE&Pdf=No%22%20\t%20%22_blank(ドイツ語のみ)

子供が「偏食」の場合は、フードサプリメントは補償になるか?

個々の成分を単独で含むフードサプリメントは、バランスのとれた食事の代わりにはならない。一般の食品が、必須栄養素に加えて、食物繊維や二次的な植物成分など、他の多くの貴重な成分を提供する。

どのようにして子供に十分な栄養素を与えることができるか?

科学的研究によると、ドイツの子供は、一部の微量栄養素に限り、科学界の推奨量を摂取していない。例えば、ビタミンの葉酸塩や微量元素のヨウ素、一部の子供のグループでは鉄、カリウム、カルシウムである。

子供の栄養摂取を改善したい場合は、これらの成分を豊富に含む食品をより多く提供すればよい。葉酸塩はほうれん草、オレンジ、豆類などに含まれ、卵にも含まれている。カルシウムは主に牛乳や乳製品に含まれる。鉄は肉類、家禽及びソーセージだけでなく豆類にも含まれる。ビタミンDの摂取は、理想的には、屋外での運動を十分に行い、定期的に十分に日光を浴びることで改善できる。詳細は、以下。

https://www.mikroco-wissen.de/en/vitamine-homepage.html

私の子供はベジタリアン食であるが、追加のビタミンが必要か?

バランスのとれたベジタリアン(オボ・ラクト・ベジタリアン)食、つまり、大量の植物性食品及び卵、牛乳、乳製品(肉を含まない)をベースにした栄養であれば、子供に十分な栄養素を供給できる。十分な鉄の摂取には特に注意するべきである。ビタミンB12は牛乳や乳製品を摂取することで確保できる。

ビーガンの栄養で考慮すべきことは何か?

ビタミンB12などのいくつかの重要な微量栄養素は、ほとんど動物性食品にのみに含まれる。動物性食品を一切食べず、栄養強化食品や栄養サプリメントのないビーガンの食事は、一部の栄養素の供給が不十分になるリスクが高い。これは、特に子供にとって深刻な健康被害をもたらす可能性があるため、ドイツ栄養協会(DGE)は、人生の特定の時期(妊娠や授乳、乳児期、小児期、青年期など)にはビーガン食を推奨しない。詳細は以下。https://www.dge.de/gesunde-ernaehrung/faq/faqs-vegane-ernaerung/(ドイツ語のみ)。

子供がほとんど外で過ごさない。ビタミンD欠乏症を恐れるべきか?

研究によると、子供及び青年の約33%でビタミンD濃度が最適以下の範囲にある。これは、ビタミンD供給のマーカー(25-ヒドロキシビタミンD)の血中濃度が30〜50 nmol/L未満の場合である。子供と青少年の約12.5%(全年齢層の平均)がビタミンD欠乏症であり、彼らの血中血清25-ヒドロキシビタミンD濃度は30 nmol/L未満である。

ビタミンD供給を改善する最も簡単な方法は、定期的に皮膚を日光に晒すことである。十分な日光に当たれば、体内でのビタミンDの生成量は供給量の80~90%になる。週に2~3回、顔、手、腕を数分、日焼止めを塗らずに日光に当てることが推奨される。しかし、日焼けは常に避けるべきである。ビタミンD欠乏症は、医師による血液検査を受けて、ビタミンDの状態を確認することができる。

ビタミンDを含む製剤は、医学的理由なしに子供に投与すべきではない。ビタミンDサプリメントの高用量摂取により、子供のビタミンD中毒と高カルシウム血症の症例報告がある。症状は、疲労、筋力低下、嘔吐、便秘、腎障害、心臓不整脈、血管石灰化に及ぶ。

子供がよくスポーツをするが、ビタミンやミネラルを多めに摂る必要はないか?

スポーツをする子供や若者にとって、必要に応じたバランスのとれた食事をすることは特に重要である。フードサプリメントはこれに代わるものではない。持久的スポーツで激しい運動をしている間のエネルギー、炭水化物又は水分/電解質の必要量を補うのに有用な特定の製品は別として、フードサプリメントは、栄養不足が医学的に証明されているか、他の方法で十分な栄養摂取が確保できない場合にのみ摂取すべきである。

フードサプリメント中の成分には、法的に定められた最大量があるか?

欧州連合(EU)のフードサプリメント及び強化食品に関する規則では、製品に含まれるビタミンとミネラルの最大量をEU全域で統一して設定することが求められている。しかし、最大量はまだ設定されていない。BfRは、2004年に最大量に関する勧告を作成し、2021年に更新した。BfRはいくつかの例外を除いて、15歳以上の青年と成人に対してのみ最大量を算出している。BfRが提案する最大量の詳細は以下。https://www.bfr.bund.de/cm/349/proposed-maximum-levels-for-the-addition-of-vitamin-d-to-foods-including-food-supplements.pdf

欧州規則で、最大量が設定されているのは、現在のところ、(-)-エピガロカテキン-3-ガレートを含む緑茶抽出物、赤カビ米からのモナコリン、食品の工業加工中に生成されるトランス脂肪酸である。最初の二つについては、18歳未満の子どもが摂取してはならないと規定されている。

子供向けのサプリメントは法律でどのように規制されているか?

ドイツでは、フードサプリメント条例(NemV)がフードサプリメントに関する法的側面を規制する。これは、欧州指令2002/46/ECの要件に基づいており、この中で、フードサプリメントに追加できるビタミンとミネラル(附属書I)及び化合物(附属書II)が規定されている。NemVには特定の年齢層に対する制限はなく、子供向けのサプリメントは、禁止も規制もされていない。

NemVによると、フードサプリメントは、包装上に含有栄養素やその他の成分分類に関する情報、又はそれらの特性及び1日推奨摂取量の表示が含まれている場合にのみ、市場に出すことができる。更に、製造業者は、1日の推奨摂取量を超えてはならないこと、フードサプリメントをバランスのとれた食事の代わりとして使用してはならないこと、製品を小さな子供の手の届かないところに保管することを明記しなければならない。健康強調表示は、欧州食品安全機関(EFSA)による科学的レビューの後、健康強調表示規則[規則(EC) No.1924/2006]の第13条及び第14条に従って認可された強調表示リストに含まれない限り、一般に禁止されている。

EUでは、フードサプリメントは認可の対象ではない;つまり、市場に出す前に評価や承認を受ける必要がないということである。ドイツの場合は、NemVに従ってドイツ連邦消費者保護・食品安全庁(BVL)に届け出なければならない。

 

フードサプリメントの詳細

フードサプリメントに関する質問と回答

https://www.bfr.bund.de/cm/349/frequently-asked-questions-on-food supplements.pdf

最新のフードサプリメント及び一般食品へのビタミン及びミネラルの添加に関する推奨最大量https://www.bfr.bund.de/cm/349/updated-recommended-maximum-levels-for-the-addition-of-vitamins-and-minerals-to-food-supplements-and-conventional-foods.pdf

 

[EU]査察報告

-アルバニア―動物用医薬品の管理を含む、生きた動物と動物製品中の残留物と汚染物質

Albania 2023-7684―Residues and contaminants in live animals and animal products including controls on veterinary medicinal products

14-12-2023

https://ec.europa.eu/food/audits-analysis/audit-report/details/4697

2023年7月17~28日に実施した、EUに輸出されるアルバニア共和国の生きた動物と動物製品中の薬理活性物質の残留物、農薬、汚染物質の管理、及びアルバニアのヒツジとヤギ、水産養殖(ヒレ科魚類)、卵、ケーシングのEU承認残留物管理計画の遵守、また以前の査察結果の対応への措置を評価するためのリモート査察結果。 概して、アルバニアの残留物管理計画はEU要件を考慮し、違反結果は迅速、包括的、有効なフォローアップを受けタイムリーな方法で実施されている。全ての検査所がISO/IEC 17025の認定を受けているため分析結果は信頼できる。にもかかわらず、分析法の妥当性や国内品質管理のアプローチには改善の余地がある。

 

-アルバニア―リモート評価 – EU輸出用卵と卵製品

Albania 2023-7849―Remote assessment - eggs and egg products intended for export to the European Union

14-12-2023

https://ec.europa.eu/food/audits-analysis/audit-report/details/4695

EU輸出用卵と卵製品がEU要件に従っていることを保証し、公式認証するアルバニアの能力を検証するための欧州委員会による評価の結果。アルバニアの公的管理や認証システムは、卵と卵製品に関するEUの衛生要件を満たしている。

 

-スロバキア―乳と乳製品

Slovakia 2023-7735―Milk and dairy products

08-12-2023

https://ec.europa.eu/food/audits-analysis/audit-report/details/4693

2023年3月6~21日に実施したスロバキアの乳及び乳製品の公的管理システムを評価するための査察。法改正により、直接摂取する羊のチーズの季節限定生産者には柔軟性が認められているである。公的管理システムには適切な仕組みがあるが、地方では人員不足のため、公的管理の水準や効果を維持するために様々な対策を取っている。食品事業者には登録と承認に適切な手順が設定され、動物の健康や福祉、動物用医薬品の使用、衛生規制要件への準拠を確認するための適切な公的管理を受けている。生乳の品質違反は効果的にフォローアップ・強化されているが、国の統計に牛以外の生乳中の阻害物質の検出が全件含まれているわけではない。必要なサンプリング数が遵守されていない。RASFFの通知の調査やフォローアップは効果的だと考えられる。

 

[EFSA]食品中の無機ヒ素のリスク評価の更新

Update of the risk assessment of inorganic arsenic in food

EFSA Journal 2024;22(1):8488  18 January 2024

https://www.efsa.europa.eu/en/efsajournal/pub/8488

(科学的意見)

欧州委員会はEFSAに対し、無機ヒ素(iAs)のハザード評価を実施し、2021年にEFSAが発表した暴露評価の更新結果を用いて、食品中のヒ素に関する2009年のリスク評価を更新するよう要請した。委員会はまた、小さく複雑な有機ヒ素種や、無機ヒ素と有機ヒ素の複合暴露に関するリスク評価も求めており、これらは別の意見として提出される予定である。

ヒ素は半金属の一種で、自然発生と人為的活動の両方により、環境中に広く存在している。ヒ素は様々な有機及び無機形態で存在する。食品や飼料中では、無機ヒ素は主に3価又は5価の酸化状態にあり、含硫化合物や亜ヒ酸塩、ヒ酸塩として存在する。

iAsへの慢性暴露は、体細胞におけるDNA損傷の増加及び染色体異常誘発事象と関連している。子宮内又は成人期におけるiAsへの慢性暴露は、遺伝子発現異常につながる可能性のあるエピジェネティックな変化とも関連している。突然変異誘発性は弱いがin vitroとin vivoで染色体異常、小核、異数性を効率よく誘発する無機ヒ素は、DNAと直接相互作用はしないが酸化ストレスを誘発し、それがDNA塩基の酸化やDNAの一本鎖及び二本鎖切断に関与すると考えられている。

ハザード評価にはヒト試験のみが考慮された。低~中程度のiAs暴露(水中のヒ素濃度が~150μg/L未満、又は同等量の暴露の結果と推定されるバイオマーカー濃度と定義される)と、皮膚、膀胱、肺のがん、皮膚がん以外の皮膚病変、自然流産、死産、乳児死亡率、先天性心疾患、呼吸器疾患、慢性腎臓病、神経発達障害、虚血性心疾患、頸動脈アテローム性動脈硬化症との関連については、疫学研究から得られた根拠は十分であり、因果関係があると考えられる。ベンチマーク用量(BMD)モデリングの妥当性規準を満たす20の疫学研究の結果からBMDが算出され、適切な基準点(reference point: RP)選択のためにさらに検討された。

パネルは、皮膚がんに関する研究から得られた0.06 µg iAs/kg体重/日の5%(交絡因子調整後のバックグラウンド発生率の相対的増加率)のベンチマーク反応(BMR)に基づくBMD信頼区間の下限値(BMDL05)をRPとして採用した。CONTAMパネルは、0.06 µg iAs/kg体重/日のRPは、肺がん、膀胱がん、皮膚病変、虚血性心疾患、慢性腎臓病、呼吸器疾患、自然流産、死産、乳児死亡率、神経発達への影響に関してもカバーしているとみなすべきと結論した。

iAsは遺伝毒性発がん物質であり、そのためCONTAM パネルは、リスクキャラクリゼーションには、健康影響に基づくガイダンス値を設定するよりも、暴露マージン(MOE)アプローチの適用が適切であると結論づけた。成人における推定食事暴露量の平均値は0.03–0.15 μg iAs/kg体重/日で、95パーセンタイル値は0.07‐0.33 μg iAs/kg体重/日であった。そのためMOEは低く、平均的な消費者で2~0.4、95パーセンタイルで0.9~0.2の範囲であった。パネルは多くの不確実性はあるものの、健康懸念があるとしている。また、食事からのiAs暴露は低年齢層ほど高く、MOEはさらに小さい。しかし、その影響は長期暴露によるものであり、疫学研究のほとんどは、生後間もない時期に高い食事暴露を受けたであろう成人を対象として実施されているため、必ずしも子供のリスクが高いことを示すものではない。そのためパネルは、このリスクキャラクタリゼーションには子供も対象に含まれると結論づけた。また、リスクキャラクタリゼーションは比較的大規模な疫学研究の結果に基づいているが、遺伝的リスクの高い感受性の高い個人は、これらの研究に十分に反映されていない可能性がある。したがって、ヒ素への食事暴露は、そのような人々にとって、一般集団よりも懸念が大きいかもしれない。

2021年のEFSAの報告書によると、異なる年齢層において、iAsの食事暴露(下限値)に主に寄与したのは、「コメ」、「コメ由来製品」、「穀物及び穀物由来製品(米を含まない)」、「飲料水」であった。若年層向けの特定食品(例えば、「乳幼児用穀類由来食品」や「子供向けのビスケット、ラスク、クッキー」)は、この年齢層におけるiAsへの食事暴露に寄与していた。

パネルは、ヒ素が誘発するエピジェネティックな変化とiAsに関連する疾病リスクとの関連性の調査、ヒ素によるDNA二本鎖切断誘導のメカニズムの調査など、追加研究の必要性を強調する。また、2021年のEFSA科学報告書において、iAsの食事暴露評価に関するいくつかの勧告がなされており、これらは現在も有効であることを指摘する。

 

-わかりやすい訳:食品中の無機ヒ素のリスク評価の更新

PLS: Update of the risk assessment of inorganic arsenic in food

18 January 2024

https://www.efsa.europa.eu/en/plain-language-summary/update-risk-assessment-inorganic-arsenic-food

リスク評価更新の背景

リスク管理者は、有害健康影響を引き起こさずに存在しうる許容可能な最大基準値を設定するために、ヒ素など、食品汚染物質の安全性に関する助言を必要としている。

食事及び/又は飲料水を介した無機ヒ素の慢性摂取は、皮膚、膀胱、肺のがんなど、有害健康影響を引き起こすことが知られている。

2009年にEFSAのフードチェーンにおける汚染物質に関するパネル(CONTAM)は、食品中のヒ素の存在に関する科学的意見を採択し、これらの影響に関する明確で低レベルの健康リスクを生み出す無機ヒ素の最小量は0.3~8 µg/kg体重/日の範囲であると結論した。

2021年、EFSAは食品中の無機ヒ素の最新の暴露評価を発表した。(https://doi.org/10.2903/j.efsa.2021.6380)

EFSAは何を求められたのか?

欧州委員会は、最新の暴露評価や、新たに入手可能になった無機ヒ素の毒性に関する科学的情報を考慮して、食品中の無機ヒ素の存在に関連するヒトの健康リスクの最新の評価を要請した。

さらにEFSAは、低分子及び複雑な有機ヒ素化合物のリスク評価や、無機及び有機ヒ素への複合暴露のリスク評価を提供するよう求められた。これらの評価は2025年の初めまでに最終化される予定である。

EFSAはこの作業をどのように行ったのか?

EFSAは、2009年以降に発表された文献の包括的なレビューを実施し、無機ヒ素のハザード評価に関連するヒトと動物の毒性学に関する文献を特定した。

実験動物とヒトの生物学的な違いに基づき、CONTAMパネルは、無機ヒ素のハザード評価に疫学的データ(ヒト)のみを利用することを決めた。

CONTAMパネルは、疫学研究の結果を用量-反応モデリングに利用できるようにするアプローチを開発した。これは、安全な、もしくは許容可能な暴露レベルを設定するのに必要であった。

EFSAは2023年7月24日から9月10日までパブリックコメントを募集し、この意見を最終化する際に利害関係者の意見を考慮した。

限界/不確実性は何か?

いくつかの研究では、尿中で測定された無機ヒ素の濃度に基づいて暴露量を推定しており、これは飲料水と食品の両方の暴露を反映している。だが、飲料水の無機ヒ素の濃度を報告していた研究もある。これらのケースでは、報告された濃度は、暴露した人の平均体重、推定される一日の水摂取量、食品からの追加暴露量を用いて推定暴露量に変換された。従って、これは不確実性の主な原因である。

個人の遺伝的違いによる無機ヒ素の毒性に対する感受性の変動性に関する不確実性もある。ハザードキャラクタリゼーションは大規模な疫学研究の結果に基づいているため、遺伝的要因により無機ヒ素暴露に関連する有害健康影響をより受けやすい個人は、これらの研究では十分に反映されていない可能性がある。

結果とそれから予想されることは?

・CONTAMパネルは、無機ヒ素への低~中程度の暴露は、皮膚、膀胱、肺のがん、自然流産、死産、乳児死亡率、先天性心疾患、神経発達への影響、虚血性心疾患、呼吸器系疾患、慢性腎臓病、アテローム性動脈硬化症、出生体重の減少、皮膚病変を引き起こす可能性があると結論した。

・EFSAのリスク評価から、皮膚がんの症例対照研究に基づき、基準点(Reference Point:RP)0.06 µg/kg体重/日が設定された。これは、無機ヒ素への暴露後の、皮膚がん誘発の増加に関連する可能性のある最小用量の保守的な推定値である。

このRPはヒトのその他の有害健康影響に対しても保護的である。

これは、2009年にCONTAMパネルの科学的意見で設定されたRPの範囲、0.3 ~8 μg/kg体重/日よりも低かった。

・無機ヒ素は遺伝毒性発がん性であるため、リスクキャラクタリゼーションでは、2021年の暴露評価における暴露量を用いて、暴露マージンアプローチが適用された。

成人では、暴露マージンの範囲はそれぞれ、平均的な摂取者で2.0 ~0.4、高摂取者で0.9~0.2だった。

リスク評価の不確実性を考慮しても、CONTAMパネルは、これらの暴露マージンは健康上の懸念を生じると結論した。専門家らは、69%の確率で、無機ヒ素の(95パーセンタイルの)高摂取者は、皮膚がんを発症するリスクが高い可能性があるとした。

・概して、食品中の無機ヒ素の消費者暴露は健康上の懸念を生じる。この調査結果は2009年のEFSAの以前の評価結果を裏付けている。

主な推奨事項は何か?

この最新のリスク評価から、いくつかのデータのギャップが確認され、以下の側面に関する更なる研究や調査を推奨している:

ヒ素がDNA損傷を引き起こす可能性があることは知られているが、その根本的な分子メカニズムについては研究が必要である。

ヒ素に関連する健康状態における感受性の個人差の役割をさらに理解することが必要である。

ヒ素がどのようにしてエピジェネティックな変化をもたらすのか、またそれに関連する疾患のリスクの、暴露集団における調査をする必要がある。

無機ヒ素によって誘発されるエピジェネティックな変化と遺伝的な変化の相互作用について、更なる研究が必要である。

出生前及び周産期におけるヒ素暴露の健康影響や、幼少期にヒ素によって誘発された変化が成人期の疾病リスクにどのように影響するかについて、さらに調査する必要がある。

加えて、リスク評価におけるヒトのデータの使用に関するガイダンスをさらに作成する必要がある。これは、疫学データのベンチマーク用量モデリングが実施される場合や、疫学データに基づく遺伝毒性発がん性の定量的リスク評価が必要とされる場合に、特に重要となる。

食品中の無機ヒ素の最新リスク評価

無機ヒ素の長期摂取は、がんや神経発達障害など広範な有害健康影響に関連する。最新のリスク評価は、新たな毒性データや改訂された暴露評価を考慮して実施された。

・用量-反応モデリングへのデータの変換

このリスク評価は、ヒト研究からの疫学的データのみに基づいたものだった。

COMTAMパネルは、疫学的データを用量-反応モデリングに変換するための新たなアプローチを開発した。

・リスク評価の基準点(RP)

RP 0.06μg/kg体重/日は、無機ヒ素が皮膚がんを引き起こすことを示す疫学的研究から導出された。

食品や飲料水を介した無機ヒ素への推定暴露量はヒトの健康への懸念を生じる。この調査結果は2009年のEFSAの以前の評価の結果と一致している。

 

[EFSA]意見等

-食品中のポリ臭化ジフェニルエーテル類(PBDEs)のリスク評価の更新

Update of the risk assessment of polybrominated diphenyl ethers (PBDEs) in food

24 January 2024

https://www.efsa.europa.eu/en/efsajournal/pub/8497

(科学的意見)

欧州委員会はEFSAに、食品中のポリ臭化ジフェニルエーテル類(PBDEs)に関する2011年のリスク評価を、10種類の同族体(BDE‐28, ‐47, ‐49, ‐99, ‐100, ‐138, ‐153, ‐154, ‐183 及び ‑209)に焦点を絞って更新するよう求めた。CONTAMパネルは、齧歯類の研究で、行動への神経発達の影響と生殖/発生の影響は重大な影響だと結論した。パネルは4種類の同族体(BDE‐47, ‐99, ‐153, ‐209)に、エンドポイント-特定のベンチマーク反応として、基準点、すなわちベンチマーク用量及び相当する95%信頼区間の下限値(BMDLs)を導出した。PBDEsへの反復暴露により、これらの化学物質が体内に蓄積されるため、パネルは、齧歯類ではBMDLで体内負荷を、ヒトでは同じ体内負荷となる慢性摂取量を推定した。残りの6種類の同族体には、基準点を特定するための研究は入手できなかった。パネルは、10種類全ての同族体を共通の評価グループに含めるための科学的根拠があると結論し、複合リスク評価を実施した。パネルは、複合暴露マージン(MOET)アプローチが最も適したリスク指標だと結論し、リスクキャラクタリゼーションに段階的アプローチを適用した。欧州の集団の食事調査や年齢層にわたる暴露量を推定するために、食品中の10種類の同族体に84,000件以上の分析結果が用いられた。PBDEsに対する慢性的な食事暴露下限値への最も重要な要因は、肉・肉製品と魚・魚介類だった。この評価に影響を与える不確実性を考慮して、パネルは、欧州の集団におけるPBDEsへの現在の食事暴露は健康上の懸念をもたらす可能性が高いと結論した。

 

-新規食品としてのイソマルツロースシロップ(乾燥)の安全性

Safety of isomaltulose syrup (dried) as a novel food pursuant to Regulation (EU) 2015/2283

22 January 2024

https://www.efsa.europa.eu/en/efsajournal/pub/8491

(科学的意見)

欧州委員会からの要請を受けて、EFSAの栄養・新規食品及び食物アレルゲンに関するパネル(NDA)は、規則(EU) 2015/2283に従って、新規食品(NF)としてイソマルツロースシロップ(乾燥)に関する意見を出すよう求められた。このNFは、粉末形状の単糖類と二糖類の混合物で、主にイソマルツロース(≥ 75%)とトレハルロース(< 13%)からなる。申請者はこのNFをすでに市販されているスクロースの代替品として使用することを意図している。このNFの製造工程、組成、規格について提出された情報は十分で、安全上の懸念を生じない。このNFの吸収、分布、代謝及び排泄(ADME)や毒性学的データは提出されなかった。代わりに、このNFの安全性は、イソマルツロース及びイソマルツロースとトレハルロースの混合物に関する入手可能な文献データに基づいて評価された。さらに、このNFの性質、組成のキャラクタリゼーション及び生産工程を考慮して、パネルは、このNFはスクロースと同様に安全であると結論するのにこれらのデータは十分だと判断した。

 

[WHO]ハイレベルイベント:トランス脂肪排除検証式典

High-level event: Trans fat elimination validation ceremony

29 January 2024

https://www.who.int/news-room/events/detail/2024/01/29/default-calendar/high-level-event--trans-fat-elimination-validation-ceremony

食品供給からトランス脂肪を排除するための政策と監視・執行メカニズムで優良な5カ国、デンマーク、リトアニア、ポーランド、サウジアラビア、タイを表彰。

 

[COT]声明:バイオベースの食品接触物質中キトサンについてのポジションペーパー

Position paper on chitosan in bio-based food contact materials (2024)

10 January 2024

https://cot.food.gov.uk/Position%20paper%20on%20chitosan%20in%20bio-based%20food%20contact%20materials

背景

化石由来のプラスチックの使用は、環境に悪影響を及ぼすとされてきた。その結果、包装に使用される従来のプラスチックの量を減らすことに関心が集まり、近年、バイオベースの食品接触物質(bio-based food contact material:BBFCM)の開発と使用が世界的に大きく増加している。バイオベース物質とは、再生可能な生物源から直接又は間接的に得られるものと定義されている。

開発中のBBFCMの中には、キトサンを含むものもある。キトサンは、キチン由来の生分解性多糖類である。キトサンに金属を添加して修飾すると、本来のキトサンに比べて抗菌活性が向上することが示されている。その結果、開発中のキトサンベースのBBFCMの中には、銅などの金属イオンを含むようにナノ加工されたものもある。

キチンはN-アセチルグルコサミンの高分子量β(1,4)結合ホモポリマーである。キチンはその場で、タンパク質やグルカンなどの他の構造成分と結合し、タンパク質-キチンマトリックスを形成する。キチンはアセチル基を除去することでキトサンに変換される。

現在、キトサンの主な商業的供給源は、水産業の廃棄物、すなわち甲殻類の殻から得られるキチンである。しかし、最近のキトサンに対する世界的な需要の高まりから、他の可能性のある供給源、菌類や昆虫に注目が集まっている。

キチンからキトサンを製造するには、脱タンパク質とそれに続く脱アセチル化が必要である。しかしながら、文献から報告されている脱タンパク質のレベルは100%未満であり、キトサンに残存するタンパク質にはアレルゲン性タンパク質が含まれている可能性があるため、食品接触物質にキトサンを使用する場合、その潜在的なアレルギー性に関して懸念がある。

考察

COTは、キチン又はキトサンベースのBBFCMのアレルゲン性リスクを評価するためには、追加情報が必要であると考えた。特に加工の影響に関する情報だけでなく、キトサン及び最終BBFCM中のタンパク質含量(化学的及び酵素的な脱タンパク方法による)、BBFCMからの移行及びBBFCMの消費に関するデータの追加も必要である。残留タンパク質の総量(mg/g BBFCMとして表示)に関する情報は、健康リスクの推定に役立つであろう。

キトサンを含むBBFCMの使用による健康リスクを評価するためには、特にこれらの包装物質から食品に移行するアレルゲン性タンパク質のレベルに関する追加情報が必要である。キトサンはいくつかのBBFCM製品の組成に組み込まれているが、これらのBBFCMの製造工程が、キトサン内のタンパク質含有量及び/又はこれらのタンパク質のアレルゲン性をさらに減少させているかどうかは明らかでなかった。従って、アレルゲン性タンパク質への消費者の暴露量を推定するためには、消費者の使用や消費量の推定値とともに、キトサンを含むBBFCM製品から、想定される使用条件下でのタンパク質の移行データを入手することは有益であろう。

入手可能な臨床摂取データから、キチン及びキトサンの免疫学的特性は、BBCFMとの関連では懸念が低いことが示された。キチンは、BBFCMの使用から予想されるよりも高い暴露量のサプリメントで、十分に容認された。臨床試験では、原料の高摂取に関連した副作用も見られたが、典型的には下痢、腹部膨満感、嘔吐などの消化管障害の軽い症状であり、比較的非特異的な炎症反応であることが示唆された。COTは、加工によって最終物質はより不活性なものとなる可能性が高いため、BBFCMにこれらの副作用は懸念されないとした。

COTは、キトサン含有健康食品に関する即時型アレルギーの限られた症例報告からは、追加の懸念は示唆されないことに同意した。この報告された即時型アレルギーの症例は、キトサンサプリメントに由来する貝由来の残留タンパク質による可能性が高いと指摘した。

2012年にPrimex社が米国FDAに提出した資料(GRAS通知No.443)には、ED01(Eliciting Dose 01)(訳注参照)のタンパク質測定とそれに対応する分析データに関するいくつかのアプローチが含まれていた。COTは、この提出書類に使用されているキトサンは、その製造に関して高度に管理されているようであり、その仕様は他のキトサン製品とは異なるかもしれないが、それでも達成されるべき基準を提供していると指摘した。委員会は、BBFCMを製造する際、使用されるキトサンはタンパク質含有量に関して一定の規格が必要であることに同意した。

COTは、食品包装中に存在するとヒトのアレルゲンへの暴露が増加する可能性を考慮すると、ED01は適切な保護目標であると考えた。しかしながら、どのEDを使用すべきかについてFSAの決定に情報を提供するため、COT閾値サブグループでの作業がまだ進行中である。ベンチマーク(例えばED01)の選択はリスク管理上の決定であることが合意された。

COTは、(摂取量がED01以下であれば)BBFCMのもたらす健康リスクが実際には無視できる程度かどうかを評価するためには、最終製品中のアレルゲンの濃度に及ぼす加工の影響と、それらが食品に移行する可能性の範囲を理解する必要があると考えた。COTの主な懸念は、汚染タンパク質と、キチン及びキトサンの起源となる生物種である。

*注:ED01とは、食物アレルギー集団において1%未満が反応すると予想される値

 

[ANSES]新しいゲノム技術由来の植物:欧州委員会が提案したカテゴリー1組み入れ基準の分析

Plants derived from new genomic techniques: analysis of category 1 inclusion criteria proposed by the European Commission

21/12/2023

https://www.anses.fr/en/content/plants-derived-new-genomic-techniques-analysis-category-1-inclusion-criteria-proposed

2001年に欧州のGMO規制枠組みが設定されて以降、植物遺伝子を組換える新たな技術が出現した。これらの新しいゲノム技術(NGT)を考慮した規制枠組みの変更に関する議論に情報提供するため、ANSESは、従来の植物と同等とされるカテゴリー1のNGT植物を定義する、欧州委員会が提案した基準を分析するよう内部要請を発出した。ANSESはいくつかの定義や分類手順、対象となる技術の範囲の明確化を求めている。また、基準の設定におけるいくつかの科学的及び健康関連の限界にも言及している。

2023年7月5日、欧州委員会は、従来の技術を用いて生産した植物と同等と見なせるため、ある種のNGT植物をGMOに関する欧州法(指令2001/18/EC)の対象とは区別するための規則を提案した。これらのいわゆるカテゴリー1とされる植物に提案された同等基準について、提案された規則、その付属書類Ⅰ、2023年10月16日に欧州委員会が配布した技術文書に基づいて、バイオテクノロジーの専門家グループの支援を受けてANSESが検討した。ANSESは、欧州レベルで進行中の議論は、すでに分析対象文書から変更されている可能性があると強調している。

 

提案されている規則案は何を対象としているのか?

この規則は2つのカテゴリーのNGT植物を対象としている。カテゴリー1植物は、天然又は従来の選択した植物と同等とされており、規則案の付属書類Ⅰに規定された従来の植物との同等性の基準で定義される。いったんカテゴリー1のステータスに設定されると、これらの植物はEUのGMO規則の対象ではなくなる。他方、カテゴリー1ではないNGT植物は自動的にカテゴリー2に入り、つまり概ねGMO法に含まれ、特定の条項と適用除外の対象となる。

ANSESは意見の中で、これらの技術は植物の生物学的機能の変更につながる可能性があり、欧州委員会のカテゴリー1提案ではこの点が考慮されておらず、その後の健康や環境リスクは除外できないことを指摘している。従ってこの提案は、GMOの枠組みが2001年に導入された際に作成された選択肢、従来の技術で作出した植物には管理やリスクがないことを証明する文書は必要ない、を拡大するものである。そのため、ANSESの見解では、そのような評価から除外される植物を指定する規制の枠組みは、非常に明確でなければならず、裁量の範囲は限定されるべきである。

しかしながら、NGT由来植物と比較しなければならない従来の植物を構成するものについての定義がないとANSESは指摘する。ANSESはまた、非常に正確にゲノムを操作するNGTの特異性である「標的サイト」の概念や、新しい品種の選択に関与する人が使用するツールである「遺伝物質」や「育種家の遺伝子プール」の概念など、いくつかの用語の定義を明確にすることも求めている。関連する技術の範囲を明確化することも推奨される。この意見では、特に、イントラジェネシスや非標的シスジェネシス由来植物をカテゴリー1から除外する理由をより明確に説明した。

最後に、ANSESはまた、提案された同等性基準の科学的正当性の限界も指摘している。カテゴリー1では、各植物のゲノムの大きさにより遺伝子組換えの閾値を考慮するよう委員会に奨励している;これは1組以上の染色体を持つ倍数体の植物には特に重要である。

*詳細

新しいゲノム技術(NTGs)に関する2023年7月5日付の欧州委員会規制案の付属書類Ⅰの科学的分析に関するANSESの意見(フランス語のPDF)

https://www.anses.fr/en/system/files/BIOT2023AUTO0189.pdf